「こんな現状、おかしくない?」からソーシャル活動を始めて政治家となる
新卒で電力会社に就職し、その後コンサルティングファームへ転職。出産を経験した女性の働き方の選択肢が狭いことに疑問を感じ、ソーシャル活動に携わるようになる。その後退職し、会社を設立してソーシャル活動に集中。2021年4月には鎌倉市議会議員選挙に出馬して当選し、精力的に活動されている藤本さんにお話を伺いました。
「ヒトはキッカケがあれば必ず変われる」生き方・働き方を応援するキッカケインタビュー。
第19回目の今回は、鎌倉市議会議員として活動されている藤本麻子さんにお話を伺いました。
新卒で電力会社に入社したのち、コンサルティングファームへ転職した藤本さん。働くなかで現状を変えなければならないという意志を強くし、ソーシャル活動を始めます。その後退職して会社を設立し、ソーシャル活動に注力。2021年4月には、鎌倉市議会議員選挙に出馬し、当選しました。藤本さんがソーシャル活動を始めた「キッカケ」や、現在の活動について語っていただきました。
「問題児」と思われながら、コンサルタントとして奮闘
千葉祐大(以下 千葉)
藤本さん、本日はよろしくお願いいたします。藤本さんは新卒で電力会社に入社されたあとコンサルティングファームに転職されたと伺いましたが、転職のきっかけを教えていただけますか?
藤本麻子さん(以下 藤本さん)
よろしくお願いいたします。私は2010年に新卒入社して2011年に転職したんですが、それは1社目の社風が自分に合わないと感じたからです。私は学生時代から問題児というか、1人だけ周りと違う感じで、先生や上司に言われたことでも、納得できないと質問したりするタイプでした。なので、言われたことにそのまま従う仕事の仕方が合わないかも、と感じていました。20代のうちにチャレンジしたいと考え、転職を決めたんです。
2社目をコンサルティングファームにしたのは、1社目が合わなかった自分を受け止めてくれるんじゃないかと感じたからです。いろいろな知識を身につけられるのも魅力だったので、内定をいただいたコンサルティングファームで働くことにしました。
千葉
2社目のコンサルティングファームには、9年間勤められたのですね。コンサルタントの仕事は、藤本さんご自身に合っていたのでしょうか?
藤本さん
合わない部分もありましたが、結果的に長く勤められましたね。コンサルタントはプロジェクト単位で仕事をするので、合わないと思っても半年から1年で別の仕事に携われるのがいいところです。「これはできなきゃダメ」というルールが厳しい分野もあるんですが、私はそれに疑問を呈すこともあったので、人事の方に呼び出されて「あなたはうちの会社に向いていないよ」と言われたこともありました。
その会社にはメンター制度があって、新人にはマネージャーくらいの役職の方がメンターとしてついてくれるんですが、私があまりにも問題児すぎて?メンターの役職がどんどん上がっていったのはおもしろかったですね。どうにもできない枠として扱われていたのかもしれません。結局いろいろな分野に回されたんですが、最終的に辿り着いたのは問題児の私も肯定してくれる上司がいるところだったので、そこで長くやらせてもらいました。
千葉
人の縁で価値観が変わったり、周りとの相性が良くて伸びたりすることはありますよね。
出産によって気づいた、男女の働き方格差
千葉
藤本さんはコンサルティングファームで、働き方が変わったきっかけは何かありますか?
藤本さん
出産ですね。2015年に子どもを生んだのが、1番大きなきっかけでした。
千葉
子どもを生んだあとの女性のキャリアに興味がある読者の方も多いと思うのですが、育休が明けてから忙しいコンサルティングファームで働く際に苦労したことはありますか?
藤本さん
結論から言いますと、子どもを育てる女性が活躍できる環境ではないと感じて会社を辞めました。今は変わったのかもしれませんが、当時は衝撃的な雰囲気だったんです。
コンサルティングファームには、優秀な女性がたくさんいます。でも、彼女たちが子どもを生んだら、バックオフィスなど本人が希望していない部署へ異動させられてしまう。それは仕方がないことなんだと周りの非常に優秀な先輩たちが言っていて、衝撃を受けました。
私は出産するまで、女性だからという理由で減点されることを一応経験せずに働けていました。しかし、出産を機に女性の働き方の選択肢がないことに気づいたんです。そこで、管理職が社内のダイバーシティやインクルージョンを考える場に非管理職なのに無理やり入れてもらって、女性の働き方を改善しようとしました。
そのとき、意思決定の場に当事者がいないと適切な制度が作られないとわかりました。管理職だけで決めると、管理者目線での良い制度を考えるんですよね。社内で勝ち抜いてきた人たちが制度を考えるので、制度改革を会社でやるのはすごく難しい。コンサルティングファームのような、いわゆる「頭のいい人」がたくさん集まる場所で、男女の働き方の格差を是正するという考えが出ないのがショックでしたね。
千葉
出産後の女性の働き方は僕も今興味を持っているテーマなので、なるほどと思いました。同一性の人だけ集まってしまうと、どれだけ頭が良くても他の視点が抜けてしまいますよね。とても勉強になります。
パッションを放出するため、ソーシャル活動をスタート
千葉
出産後の女性のキャリアについて考えられていないことに衝撃を受けたあと、藤本さんはどのように過ごされていたのでしょうか。
藤本さん
2019年頃から、ソーシャル活動を始めました。子どもを預ける仕組みに違和感を持っていて、同僚の女性とNPOなどを作れないか話していたんです。しかし、私は何も詳しくなかったので、書籍を読んだりセミナーに行ったりしました。そのなかで、国会議員の方も参加している子どもの政策に関するイベントへ行き、私と同じように女性のキャリアが狭まっている現状を問題視している方がたくさんいると知ったんです。
私は当時、半分絶望していました。女性は生まれた瞬間から、理想のキャリアを築けないことが確定している。子どもを育てているあいだ、キャリアは我慢するしかない。何それと考えつつ、会社員をやっているだけではそのパッションの放出先がなかったんです。そこで、イベントで知り合った方に紹介いただき、子育て関係の政策のロビー活動に参加するようになりました。
政党の方に説明しに行ったり、知事にヒアリングへ行ったりするのを重ねるうちに、これまでの生きづらさの根源は政治が問題なんだと思うようになったんです。そこで、当時私が勤めていた会社だけを変えても意味がないと感じました。私の勤務先も経済産業省が作ったルールのもとでビジネスをしているから、女性の働き方を変えるに至らないんだとわかり、政治を変えるための活動に力を入れるようになったんです。
千葉
エネルギーがすごいですね。子どもを生んだことで気づいたおかしい現状に対する憤りが、ソーシャル活動への熱につながっているのですね。
藤本さん
私は、「その原理おかしくない?」ということを昔から許せないんですよ。理由はないけどとにかく禁止されているからみたいなのが、子どもの頃からずっと許せなくて。小学校の卒業文集で「藤本さんは皆が言おうか迷っていることをズバッと言ってしまうので、いつもびっくりしていました」と書かれたくらいです。昔からずっと、「それっておかしくない?」というスタンスだったので、学校や会社では「変人」「問題児」というレッテルでしたね。
千葉
なるほど。会社員として働きながらソーシャル活動に足を踏み入れて、驚いたことなどはありましたか?
藤本さん
ソーシャル活動では、人をどんどん繋げていく文化があることに衝撃を受けました。会社員として働いていた頃は、人脈、はステータスの一つとして扱われる側面がありました。「あの人と知り合いの俺、すごい」みたいな。だから、その知り合いを簡単に他の人に繋げることがあまりなかった気がします。自分の所属しているチームメンバーとしか関わらない人も多く、私が社内で別部署の人に話しかけると、同僚に「知らない人に声をかけるなんてお前はやばい」と言われたんです。同じ会社なのに、人とのつながりは希薄だったと思います。
しかし、ソーシャル活動をしていると、私が興味を持っていることについて話したら「じゃああの人に話を聞いてみたら?」と知っている人をガンガン紹介してもらえるんです。ソーシャル活動の目的は社会を変えることだから、それが実現するのであれば誰と誰がつながっていてもいいという意識があるのかもしれません。
千葉
おもしろいですね。確かに、目的があってそのための手段として幅広い方とつながるのは大切ですよね。
会社を設立しソーシャル活動を続け、鎌倉市議会議員に
千葉
会社員を続けながらソーシャル活動をして、2019年に退職されたのですね。次の仕事の目処は立っていたのでしょうか?
藤本さん
いいえ、全然。ロビー活動をはじめとするソーシャル活動が忙しくなって、会社に行かなくても居場所ができた感覚があったんです。企業で働いていても私の望む社会変革はできないと感じたのもあって、とりあえずコンサルティングファームを辞めました。辞めてからしばらくは、社会を変えるために何をすべきなのか考えながらフラフラしていました。
ただし、雇用されるのが向いていないと感じていたので、会社を立ち上げるしかないと考えました。そこで、神奈川県の起業家支援施設「HATSU鎌倉」で起業プログラムに参加し、2020年に会社を作ったんです。鎌倉はもともとリベラルな街で政治が近いので、鎌倉に会社を設立して拠点とし、ソーシャル活動をしていくことにしました。
千葉
なるほど。そして鎌倉に拠点を移した約1年後には、鎌倉市議会議員になっていらっしゃる。そのきっかけを教えてください。
藤本さん
女性のキャリアが狭まっている原因は政治だと2019年にわかってから、一般社団法人パリテ・アカデミーが開催している女性向けの政治勉強会へ参加し、政治について考えている女性たちと知り合いました。そこからやり取りが継続していて、なかには選挙に出る方もいたんです。政治には女性が少ないから、自らやる必要がありますよね。
そんなときに、鎌倉市議会の男女比率を50対50にするプロジェクトを立ち上げようと考えました。周りからも必要なことだと言われましたが、結局選挙に出る女性がいない。誰がやるかと考えたとき、じゃあ言い出した私が出ますよと。結局、2021年4月の鎌倉市議会議員選挙で1,852票をいただき初当選しました。
千葉
政治について考えている女性のコミュニティで藤本さんが刺激を受けたように、藤本さんの活動を見て刺激を受ける読者の方もいると思います。やはりコミュニティに足を運び、自ら行動するのはとても大事なんだと改めて思いました。
社会問題を解決するため、自分の周りにあるドアや窓を開けてみてほしい
千葉
藤本さんが読者の方に伝えたいメッセージをお願いします。
藤本さん
まず、議員の仕事は楽しいと伝えたいです。皆さんも、もし次選挙に出られそうだったら出てみてください!社会的な課題を解決したいのであれば、選挙に出ることはひとつのソリューションとして大事です。
私は今、議会内で活動をして政策の推進もできていますが、地方議員として頑張っている話よりも、私がこれまでこのように生きてきて課題を感じ、今議員になってガンガン何かを変えていることを多くの方に知っていただきたいです。そのうえで、やってみる決断をしてほしいと思います。
例えば今会社員で、子どもの保育園の送迎で時間がなく大変な日々を過ごされていて、なんで私ばかりこんなに頑張っているんだろうと思っている方も絶対いるはずです。そのような未来を不安視している方も、たくさんいると思います。でも、ソーシャルの部分ってビジネスをしているととても見えづらいんですよね。
それでも、議員を身近に感じたり、自分が行動することで社会が少し変わると思ったりするだけで、世界は広がります。だからこそ、自分の周りにあるドアや窓の隙間を開けてみてほしい。1人の議員が成果を出して上り詰めていく様子よりも、問題児と言われながら過ごして出産を機に問題解決のため動くようになった私の存在を知って、「こういうのも有りなんだ」と思っていただきたい。そして、「わたしもやってみようかな」とか「この社会を変えたい!」と想い動く人を増やすことに、私は余生をかけたいと思います。
千葉
とてもいいお話でした。確かに、身近に政治家の方がいないと政治は遠いと感じてしまいますよね。でも、実は1歩踏み出してみると身近に感じられるので、政治的な課題を感じている方はぜひ少しだけ行動してみてほしいと思います。
藤本さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
大学卒業後、電力会社に入社。その後コンサルティングファームへ転職し、コンサルタントとして9年間勤務。子どもが生まれるとキャリアが途絶えてしまう女性の働き方が一般的である状況に疑問を感じ、会社員として働きながらソーシャル活動を始める。その後退職し、神奈川県の起業支援拠点「HATSU鎌倉」で起業プログラムに参加。2020年、株式会社フジモトソーシャルラボを設立。2021年4月、鎌倉市議会議員選挙に出馬し当選。