「すべてを子どもに」 市議会議員として、教育者として、子どもたちのために活動
塾講師のアルバイトや小学校教員として、教育現場で経験を積む。埼玉県所沢市へ引っ越したのち、所沢市議会議員選挙で当選し政治の世界へ。「すべてを子どもに」というメッセージを掲げ、所沢市を子どもの街にするべく活動する神戸さんにお話を伺いました。
「ヒトはキッカケがあれば必ず変われる」生き方・働き方を応援するキッカケインタビュー。
第12回目の今回は、所沢市議会議員として活動されている神戸鉄郎さんにお話を伺いました。
大学在学中から、塾講師のアルバイトで教育に携わってきた神戸さん。小学校教員として就職し、正規教員から非常勤講師になってからも教育現場で奮闘してきました。2022年4月に埼玉県所沢市へ引っ越し、同年秋に所沢市議会議員選挙で当選して現在に至ります。神戸さんが政治の世界に飛び込もうと思った「キッカケ」や、これからの活動にかける想いを語っていただきました。
成長の支援を実感できる塾講師の仕事を7年間続け、教員の道へ
千葉祐大(以下 千葉)
神戸さん、本日はよろしくお願いします。神戸さんは宮崎県出身と伺いましたが、大学進学を機に上京されたきっかけを教えていただけますか?
神戸鉄郎さん(以下 神戸さん)
よろしくお願いいたします。私の母が関東出身で、父は宮崎出身ながら東京の大学に通っていたため、上京するのが当然のような流れがありました。早稲田大学に行きたかったんですが2回チャレンジして不合格だったので、ご縁をいただいた武蔵大学に入った形です。
千葉
ありがとうございます。今振り返ってみると、神戸さんはどのような学生だったのでしょうか?
神戸さん
他人から見ると、はちゃめちゃな人間だと思われていそうですね。思いがけない行動を取るし、意外性があるかもしれません。フットワークが軽いともよく言われます。今もあまり変わっていませんね。
自分自身は、楽しいことをしたいとずっと思っていました。大学のサークルも、楽しくて没頭できるものがいいと思って選びましたね。アルバイトに塾講師を選んだのも、そのような理由がありました。
千葉
なるほど。塾講師のアルバイトを始めたのは、大学在学中なんですね。
はい。仕送りをほとんどもらえない状況だったので、時給がいいアルバイトを探した結果塾講師に巡り合った形です。楽しそうだからという理由もありましたが、浪人時代に高校生に勉強を教えていたこともきっかけとしてありましたね。古文を教えていたんですが、生徒が「てっくん(私)の教え方、高校の先生よりわかりやすい」と言ってくれて。じゃあ塾講師をやってみようかと思いました。
やってみると、すごく楽しくて。子どもや保護者との関係も先生方との関係も、本当にノンストレスでした。大学に入学してから編入し卒業するまでの7年ほど、塾講師のアルバイトで濃密な時間を過ごせました。私は飽き性ですが、塾講師は楽しいし成長を支援している実感も得られたので続けられましたね。
千葉
7年はすごいですね。ご自身に合っているからこそ続けられたのだと思います。大学は4年間で卒業したのではなく、編入されているのですね。
神戸さん
そうですね。もともと就職活動をして株式会社リクルートホールディングスに入りたいと思っていましたが、リーマンショックのあとで採用数が減った時代だったんです。それに加えて、人の成長をより支援できることをしたい想いに駆られていました。
当時付き合っていた彼女に相談したところ、「あなたは子どもが好きだし保護者ともコミュニケーションを取れるんだから、学校の先生が向いているんじゃない?」と言われ、雷に打たれたような衝撃を受けました。確かにそうだと思ったのでキャリアチェンジして、教育の大学に編入しました。
いろいろな立場の人が教育現場に入ってほしい
千葉
編入した大学を卒業し、小学校の教員になったのですね。
神戸さん
はい。教員不足といわれている世の中で、子ども一人ひとりを見て成長を少しでも実感できる教員の存在はありがたいものです。私は一般的な就職活動とは違う道を歩んできましたが、いろいろな立場の方が教員になってほしいと心底思っているんですよね。
教員時代、教育学部出身で先生になった同僚がいました。この人は平日はもちろん休日に大学の友達と飲みに行っても、退職する65歳までずっと教員というコミュニティにいるんだと思うと恐ろしくなったんです。その話を知人にしたところ、「学校の先生は小学1年生から退職する65歳まで学校という枠組みにずっと囲われている人たちだよね」と言われ、ハッとしました。
だからこそ、本当にいろいろな人が教育現場に入ってほしいと思っています。今市議会議員としてやりたいことのひとつですね。
千葉
いろいろな人が集まるからこそ見えることって、たくさんありますよね。大学を卒業してからずっと教員をするだけでなく、会社に勤めてから教員になるなどいろいろな経験をされた方が教育現場に入り、価値観が入り混じると嬉しいですね。
神戸さんは教員を経験された一方でベンチャー企業の役員も務めていらっしゃったそうですが、そこに行動が移ったきっかけを教えていただけますか?
神戸さん
最初は正規教員として働いておりやりがいを感じていたんですが、先生同士の軋轢があり、メンタルの不調が出るようになってしまいました。職員室に行くのが難しくなってしまいましたが、教員を続けて子どもと保護者と関わりたい想いは変わらなかったんです。その結果、正規教員を辞めて非常勤講師になりました。
正規教員や常勤講師は副業ができませんが、非常勤講師は副業が禁止されていません。そこで、非常勤講師をしながら仲間たちと株式会社Edu.torを創業し、執行役員を務めることにしたんです。
所沢市の子育て環境を変えるため、市議会議員選挙に挑戦
千葉
ベンチャー企業の執行役員を務めながらも非常勤講師として教育に携わっていた神戸さんですが、どのようなきっかけで所沢市の市議会議員になられたのでしょうか?
神戸さん
2022年4月に、さいたま市から所沢市へ引っ越してきたんです。交通の便も優れているため所沢市を選びましたが、子育てに関しては課題があると感じました。
もともと所沢市に住んでいた友人が、育休退園制度について教えてくれたんです。育休退園制度は、第二子が生まれて親が育児休業を取得しているなら、第一子は自宅で保育ができるから保育園を辞めてくださいという制度です。私はこの制度を知ったときに衝撃を受けて、やばいなと思いました。
そして我が家でも同年6月に第二子が生まれ、10月に妻の職場復帰が決定し第二子の保育園を決めることになりました。その際に改めて育休退園制度はおかしいと思い、所沢市は子育てがしにくい街だと感じたんです。そこで、ちょっと市議会議員選挙に出てみようかなと思っちゃったんですよね。
千葉
育休退園制度はニュースにもなっていて、僕も子ども関連の事業をしているからこそ記憶に残っているので、おかしいと思うのはとても共感できます。ただ、おかしい状況を変えるため市議会議員選挙に出てみようと決断されたのは、さすがはちゃめちゃな行動力を持つ神戸さんだなと感じました。
神戸さん
もともと私は地方政治に興味があり、妻もそれを知っていたんです。50歳くらいで政治家になろうかなと、昔言ったこともありました。ただし、4月に引っ越してきたばかりで、選挙に必要な「地盤・看板・鞄」の全てがない。そんな状態で挑戦できるほど、政治の世界は甘くないとわかっていました。
そんなとき、学生の頃議員インターンシップで知り合った元議員から、たまたま所沢市で日本維新の会公認の候補が空いているから立候補してみたらと言われたんです。そこで立候補した結果、日本維新の会の公認候補として選挙に出ることができました。
今までの選挙にはもちろん全部行っていましたが、熱烈に日本維新の会を応援していたわけではなかったんですよね。ただ、知り合いの元議員と話したところ、維新は「自立」を大事にしている政党だと言われました。依存するのではなく自立する、政治家自らが襟を正して身を切り、規範を示し行動していくという2点が気に入ったので、日本維新の会の公認を受けてみようと思ったんです。
千葉
素晴らしいですね。いろいろなことにチャレンジしてきた神戸さんだからこそ、掴めたチャンスなのだと思います。
塾講師時代の教え子、パパ友、地域の方々。応援を力に無事当選
千葉
2人目のお子様も生まれてライフステージが変化したタイミングでの選挙活動だったと思いますが、バタバタした部分もあったのではないでしょうか?
神戸さん
立候補しようと決意したとき妻は育休中で、私もそこまで忙しくないタイミングではありました。ただし、突然のチャンスだったのでやはりバタバタはしましたね。
今回36歳で立候補しましたが、4年待って40歳で立候補する選択肢もありました。でも、今回のように舞い降りてきたようなチャンスはそうないだろうと思ったので、やらせてもらいました。
千葉
僕も40代は全然チャレンジする世代だと思いつつ、30代でスタートする場合と大きな違いがあると共感することが多いので、なるほどなと思って聞いていました。
選挙活動も初めての経験で大変だったと思いますが、当時のエピソードを教えてください。
神戸さん
私は学生時代議員のもとでインターンをしていましたが15年ほど前のことですし、国会事務所にいたので地元での動き方も全くわかりませんでした。周りの議員に聞くと、朝駅に立つことと地域を回ることを勧められたので、その2つはするようにしていましたね。
また、今回は所沢市の議員の定数が33名に対し立候補者が46名だったので、当選するためにどのような文言を訴えなければならないか考える必要がありました。ターゲティングが必要でしたが、所沢市には私のような新規住民と昔から住んでいる旧住民がいるため、どちらに響く文言を作るか考えたんです。
そこで私は、20〜40代の子育て世代の新規住民に刺さる言葉にしようと思い、「すべてを子どもに」という子どもに全振りしたキャッチコピーを掲げました。私は子どものために政治をしたかったので、ここまで尖らないと当選しないと思ったんです。
もうひとつ、塾講師時代の教え子やその家族の皆さんが選挙戦を手伝ってくれたんです。「神戸先生にはお世話になったから、この大一番は手伝わなきゃ」と、支持政党など関係なしに応援してくれました。教え子が東京の大田区から応援に来てくれたり、元同僚がわざわざ飛行機で福岡から来てくれたりして、ありがたかったですね。人の成長を支援したいと考えていた自分が、教え子の成長を具体的に体感できた幸せな出来事です。
千葉
神戸さんは今回初めての選挙でしたが、結局かなりの票数を獲得されてらっしゃいましたよね。
神戸さん
そう、まさかの5位だったんですよ。私は33名のなかに入ればいいと考えていたので2,000票くらいを目指していたんですが、得票数は3,845票でした。思いのほか市民の方が応援してくださって、駅で立っていたら手伝ってくれたりパパ友が応援してくれたりして、あらゆる方を巻き込みながら選挙戦ができたと思います。
政治家でありつつ教育者でありたい。体験格差の是正に取り組む
千葉
議員活動をスタートされて感じたことや、今後の活動に対する意気込みがあれば教えてください。
神戸さん
2023年5月1日に議員活動を始めてから、地方議会においても議員においても多様性は絶対に大事なんだと改めて思いました。日本維新の会の幹事長が、「地方議員をキャリアの選択肢に」という話をしており、すごくおもしろいと思ったんです。
民間企業で働いたり教員をやったりするキャリアのなかに、政治家という選択肢を入れていただきたい。政治家は物事をマクロ的な視点で見られて、かつ地域の方々のためにもなれる一石二鳥な仕事だと思って私は今活動しています。
今後もぶらしたくない活動の軸は、政治家でありつつずっと教育者であり続けることです。今話し合っているのは、体験格差の是正ですね。お金を持っている人はたくさん旅行をしてさまざまな体験ができますが、お金がない人は家にこもってYouTubeを見たりスマホゲームをしたりするしかない。そのような体験格差を是正するために、所沢市で何かできないか考えています。
個人塾の塾長さんたちに相談したところ賛同いただけているので、例えばある月はプログラミングを1,000円でやりましょうとか、ある月は理科の実験教室をやりましょうとか、所沢市で盛り上がるようなことができたらいいなと思っています。市議会議員としても教育者としてもやりたいことはたくさんあるので、子どもたちのために活動していきたいですね。
千葉
政治家をひとつのキャリアにするというのを、実際にやったことがある方が言うのは素晴らしいですね。政治に興味を持っている方が、1歩踏み出すきっかけになる言葉だと思います。
僕は大人がワクワクすると子どももワクワクすると思っているので、これからもぜひ一緒におもしろいことをやっていければいいなと思います。神戸さん、本日は稀有な体験をお話しいただきありがとうございました。
宮崎県出身、大学進学を機に上京。塾講師のアルバイトを経て小学校教員となる。その後非常勤講師となり、ベンチャー企業の執行役員も並行して務める。ライフステージの変化をきっかけとして2022年4月に埼玉県所沢市へ引っ越し、2児の父として子育てをしながら同年秋に所沢市議会議員選挙に挑戦して見事当選。教育に関わってきた経験を活かし、「すべてを子どもに」というメッセージを掲げて所沢市を子どもの街にするべく政治家として活動中。