助産師がいのちにまつわる社会課題を解決 助産師が、あなたの未来を明るくする|こどもの未来トーク
「こどもの未来トーク」第31回目は、株式会社With Midwife 代表取締役の岸畑 聖月さんにお話を伺いました。自身も助産師としてはたらく岸畑さんは、助産師がさまざまな社会課題を解決する人材になり得るとしてさまざまな事業を展開しています。With Midwifeの事業内容や掲げるビジョンについて、見ていきましょう。
株式会社With Midwifeを立ち上げた経緯
千葉:週に1度お昼に行っているカジュアルトークイベント「こどもの未来トーク」、第31回目のゲストは株式会社With Midwife代表取締役の岸畑 聖月さんです。本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、With Midwifeという会社についてお聞かせいただけますか?
岸畑:よろしくお願いいたします。社名となっているWith Midwifeは「助産師とともに」といった意味で、弊社は助産師に関するいろいろな事業を展開しています。
私は幼少期に病気にかかり妊娠や出産が難しくなってしまったことから、妊娠や出産をする人たちを後押ししたいと考えて助産師になりました。現在も助産師として働いており、昨日も夜勤でした。
助産師は出産の現場にいる人というイメージが強いと思いますが、平成からは日本で助産師になるためには看護師の資格が必須になったので、助産師が持つ知識は多岐に渡ります。妊娠や出産、子育てはもちろん、健康やメンタルの話もわかるし、ジェンダーの専門家でもある。また助産師の約半数は保健師の資格も持っているため、予防医学や地域医療にも明るい。こんなにオールマイティーに課題を解決できる医療従事者は、稀有な存在ではないでしょうか。だからこそ私は、助産師が今後の社会課題を解決する人材として必要不可欠だと思い、事業をしています。
千葉:ご自身の経験から助産師を志し、助産師が未来を明るくするための事業を進めている。素晴らしいですね。
岸畑:ありがとうございます。先ほどお話しした社名についてですが、midwifeの「mid」はmiddleから来ていて、側に寄り添う、つなぐ、中間点のような意味があります。そしてwifeは女性という意味なので、midwifeは日本語では助産師ですが、本来は「寄り添う女性」という意味があると私は感じています。
昔、助産師は産婆と言われていて、各地域にいて妊娠前後のサポートや出産の手伝いをしていました。しかし第二次世界大戦が終わりアメリカからGHQが来たとき、自宅で出産するという文化がないアメリカの視点から産婆は野蛮だと批判され、全国のコミュニティが解散させられたんです。これによって出産が病院で行われるようになったので、日本はお母さんも赤ちゃんも死なない世界でも有数の国になりました。しかし、それ以外の課題が取り残されています。
日本では、お母さんの死因の1位は自殺です。子どもの虐待死も、半数近くが0歳児となっています。ほかにも不妊治療や中絶などさまざまな問題があり、これらは病院の中だけでは解決できないと私は考えていました。
一方、助産師は給与や勤務時間などさまざまな理由で病院だけでは働けないこともあります。しかし、現在助産師の就職先の9割は病院です。病院で働けないと、助産師として潜在化してしまう。救えるスキルを持った人がいるのに、救われない命がある。私は、そこを課題と感じています。
そこで私たちは、全国の助産師のネットワークを構築し、医療現場だけでなく社会でスキルを活かせるようにして、助産師が社会に価値を提供する筋道をつくろうとしています。
助産師を軸とするさまざまなサービス
千葉:事業内容について、詳しく教えていただけますか?
岸畑:当社の事業は、大きく自主事業と連携事業の2つに分かれます。自主事業としては、全国の助産師を検索できるプラットフォーム「Meets the Midwife」、企業の従業員とその家族をサポートする「The CARE」、助産師向けのリスキリングサービス「License says」などを展開しています。
助産師検索プラットフォーム「Meets the Midwife」
千葉:Meets the Midwifeは、日本初の助産師検索プラットフォームなんですね。
岸畑:そうなんです。助産師さん一人ひとりの想いやイメージを可視化してすぐ閲覧できるようになっているので、自分で助産師を選択して問い合わせることができます。
千葉:岸畑さんのお話を聞いていて助産師の方にお仕事をお願いしたいと感じたので、全国の助産師さんを検索できるのはとてもいいですね。
岸畑:開業したりフリーランスになったりしている助産師の方がたくさん登録しているので、ぜひお仕事をお願いしてつながっていただけると私もすごく嬉しいです。
助産師は医者と同様開業権があるので、医療施設をつくることができます。開業して活動されている助産師さんは、一定数いると思いますね。
千葉:イメージが湧きにくい読者の方も多いと思うのですが、フリーランスの助産師はどのような活動をされているのでしょうか?
岸畑:人によって本当にさまざまですね。妊娠や出産に関わるメディアと連携して記事を書いたり監修したりしている方もいますし、パートナーシップや子どもの成長などのテーマを決めてその相談を受けている方もいます。写真の技術を身につけて、産後の相談とセットでニューボーンフォトのサービスを提供している方もいますね。
病院で勤務しながら、副業的に事業をしている助産師の方もいます。助産師はライスワークではなくライフワークだと私は考えていて、どの仕事に就いたとしても助産師の資格が活かせると思うんです。カメラマン×助産師やライター×助産師など、組み合わせて仕事をしている方は割といるかもしれないですね。
助産師3名以上が企業に専属で付いてサポートする「The CARE」
千葉:The CAREも、企業専属の助産師が付くという新しいサービスですよね。
岸畑:そうですね。The CAREでは1企業に3名以上の助産師が専属で付き、従業員やその家族をサポートするサービスです。専属なので継続的に支援ができますし、オンラインで相談対応するなかで必要になった場合は対面でのケアも可能です。全国300名以上登録している助産師さんのネットワークを使い、近くの助産師さんが駆けつけてくれる仕組みを提供しています。
妊婦さんだけでなく、全従業員とその家族が使えるサービスなので、男性からの相談も多いですね。新しい従業員支援の在り方として、サービスを広めていきたいと考えています。
千葉:なるほど。産業医や産業保健師のような形で、助産師が担当してくれるんですね。
岸畑:産業医や産業保健師と一緒だと思われることもありますが、産業医や産業保健師の場合は顔を知ってもらえるメリットがありつつ、匿名性が担保されないというデメリットがあります。例えば不妊治療などのナイーブな話は、匿名性がないとなかなか相談しづらいですよね。
だからこそThe CAREでは、ちょうどいい距離感が保てるようにしています。可視化はしているものの匿名で相談できるため、妊娠や出産に関することも安心して相談してもらえます。
千葉:素晴らしいですね。デリケートな相談だからこそ、匿名性の担保は大切ですよね。
岸畑:はい。不妊治療のほかに中絶なども、匿名でなければ相談しづらい話です。ハイリスクな中絶をして復職時に産業医面談をしなければならないケースもありますが、やはり中絶の話はしづらいという意見は多いんですよね。匿名で相談できる環境も、企業には必要だと思います。
千葉:現在導入されている企業も増えていると思いますが、サービスを案内したときの企業の反応はいかがですか?
岸畑:起業した3年前と今では、ファーストタッチのリアクションが違いますね。とはいえ、どの企業でも喉から手が出るほど欲しいというサービスではないと思います。サポートによって生産性が上がる、採用にメリットがあるという点で評価していただいても、効果としてわかりにくいのは否めません。
いつかは経済社会的にわかりやすい表現で導入してもらうケースも必要になると思いますが、今はどちらかといえば従業員のために環境を改善したい、会社として足りていないサポートを提供したいというビジョンを共有できる企業様とご一緒させていただいている印象がありますね。
助産師向けリスキリングサービス「License says」
千葉:助産師と利用者をつなぐだけでなく、助産師のスキルアップを図るリスキリングサービスも提供されているのですね。詳しく教えていただけますか?
岸畑:助産師向けのリスキリングサービス「License says」では、社会に出ると触れることになる情報や提供すべき情報を網羅的に学べるようなライセンスを独自で構築しています。助産師になるためには赤ちゃんや妊娠中のこと、産後やジェンダーのことも幅広く勉強します。しかし、助産師の多くは働く場所が病院に限られており、臨床現場においては何回かの妊婦健診と出産後の5日間しか関わることができないので、使える専門知識はすごく限られてしまうんです。
社会に出ると臨床現場で使った知識以外も必要なので、もう一度学び直しをしたり、最新のデータや情報をインプットしたりする機会を提供しています。License saysでは医療の知識以外にも、ITやデザイン、ブランディングの話もしますし、防災や健康経営、ダイバーシティのようなことも網羅的に学べるようになっています。
他企業や教育機関、地方自治体との連携事業
千葉:連携事業についても、教えていただけますか?
岸畑:連携事業としては、株式会社赤ちゃん本舗やタカラベルモント株式会社と一緒にプロジェクトを立ち上げています。大学や地方自治体とも連携していますね。先ほど昔の日本では助産師が地域に根ざしていたという話をしましたが、それをもう一度復活させようという取り組みを現在別府市と進めようとしています。イギリスやオーストラリアにはコミュニティミッドワイフという地域を見る担当のミッドワイフのチームがあるので、それを日本でもやってみようと考えているところです。
千葉:海外では今の日本と違い、地域に根ざした助産師がいるんですね。
岸畑:そうですね。例えばオーストラリアではAという地区に10名ほどの助産師が登録していて、地区のホームページから担当のミッドワイフを選択できるようになっています。自分で選んで面接をして、1番いいなと思った人を自分の担当にできるんです。妊娠中の病院に付き添ってもらい、出産のサポートもしてもらいます。イギリスやオーストラリアでは出産の際1泊2日で退院になるので、退院後も自宅で子育てのことを教えてもらえるパッケージがあるんです。
コミュニティミッドワイフからケアをもらうパッケージが大体10万円くらいで受けられて、公的資金からも費用を援助してもらえる。そのような仕組みを、日本でも作れたらいいなと思っています。
少子化・少母化の社会で助産師が価値提供できる事業を
千葉:岸畑さんは助産師として働きながら代表取締役もされていますが、営業などもご自身でされているんですか?
岸畑:今年の3月までは私も営業することが多かったんですが、4月にスタッフを増やして任せるようになりました。企業様をサポートするうえで課題をヒアリングし提案する必要がありますが、そこに介在する人とサービスが導入されたあとに提案したことが実行されているか確認する人が分断されてしまっている状況が良くないと、以前から思っていたんです。
せっかくユーザーさんに寄り添えるサービスなのだから、企業に対しても管理者が寄り添えるような仕組みを作りたいと思い、スタッフを増やしました。ウェルネスコーディネーターと呼んでいる方々を今どんどん特訓して、サービスを提案して広げていけるよう育成している真っ最中です。
千葉:素晴らしいですね。1人3役も4役もやられているのが。
岸畑:弊社のスタッフは皆、1人何役もしている方が多いかもしれません。
女性がキャリアを築いていくうえで、今まではプロフィットセンターと言われる営業職や数字を追いかける仕事ではなく、事務職など代わりがいたりお金が見えづらかったりする職業に就く方が多かったと思うんです。もちろん事務職も大事ですが、最前線に出ていって関係性を築ける女性は、ライフプランの変化があってもいつでもキャリアに戻ってくれるポテンシャルがあると思うんですよ。だからこそ、20〜30代の若いうちにいろいろな仕事を経験して、人の何倍も働けるようなスキルを積んでおくことは女性活躍のために重要なのではないかと考えています。
千葉:ありがとうございます。それでは、最後にメッセージをお願いします。
岸畑:今回は「こどもの未来トーク」のゲストとして呼んでいただきましたが、私は子育てはすごく尊いものだと思います。子どもという1人の人格を育てるのは大人にとってもいい経験になり、自分育てにもなる。つまり子どもの未来をつくることは、自分の未来をつくることにもなるんじゃないかなと感じています。そのような尊い子育てに取り組んでくれる人が、1人でも多くなるといいですね。
今は少子化と言われていますが、ひっくり返して少母化、産む女性が少なくなってしまっているという社会課題があります。産みたいと思う人が産み育てられる経験を得られる社会になってほしいですし、そのために活躍できるのは助産師のスキルや経験を持った方だと思うので、With Midwifeでは今後も助産師が社会に価値を提供できるような事業をしていきたいと思います。
With Midwifeという社名には「助産師とともに」という意味が込められていますが、先日アメリカのシステムエンジニアの方から就職希望があり、だんだんと助産師だけの会社ではなくなってきています。いろいろな領域の方とシナジーを生み、私たちのビジョン達成のために協力できると嬉しいので、共感いただける方がいらっしゃればぜひつながってください。本日はありがとうございました。
千葉:素敵なメッセージをありがとうございます。「子どもの未来=自分の未来」というのは僕も本当にそうだと思いますし、ぜひこれからもご一緒させていただければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
幼少期の闘病の経験から助産師を志す。19歳で一度目の起業を経験し、事業を全国に展開する。
その後、助産学・経営学を学ぶため京都大学大学院医学研究科に進学。卒業後は助産師として年間約2,000件のお産を支える総合病院へ就職。2019年、ビジネスプラン発表会LED関西第5回ファイナリストに選出されたことを契機に、株式会社With Midwifeを創業。
企業に助産師を導入する健康と子育ての従業員支援サービス「The CARE」などを展開し、伊藤忠商事株式会社やロート製薬株式会社など全国的に導入が進んでいる。さらに病院勤務も継続しながら、株式会社赤ちゃん本舗や信州大学との連携プロジェクトを統括するほか、公益財団法人大阪産業局で女性起業家支援にも従事している。
その他内閣府主催少子化社会対策大綱における検討会やこども家庭庁に関する大綱創設に関する検討会に有識者として出席している。