ハードワーカー弁護士を変えたライフステージの変化
第五回目の今回は、NPO・非営利団体への法的支援をしながらこども政策や労働政策にも携わる稲田遼太さんにお話を聞きました。パパとしてこどもや子育てに関連した活動に力を入れている稲田さんのきっかけインタビューをご紹介します。事務所の移籍と出向、理事を通じて培ったチャレンジ精神のきっかけを深掘りしてインタビューしました。
軽い気持ちで参加した海外ツアーが弁護士の道を切り拓く
千葉 祐大(以下 千葉):
今回のキッカケインタビューは5人目となる稲田さんに来てもらってます。いま弁護士を本業にしていて、会社員をやっていて転職とはまた違ったちょっと新しいパターンです。きっかけを深掘りしていきたいと思います。まずは簡単な自己紹介をお願いします。
稲田遼太(以下、稲田さん):
はい、稲田遼太と申します。本業は弁護士をしていて、現在は子育てや子供の領域で活動をしている会社・個人事業主のフォロー(法的なサポート)をすることが多く、NPO(非営利)団体の支援なども行っております。
千葉:
ありがとうございます。弁護士として幅広く活躍される稲田さんですが、弁護士を目指そうと決心されたのはどのようなことがきっかけだったのでしょうか?
稲田さん:
弁護士を目指そうと思ったのは、もともと中学校に先輩弁護士が来て話を聞いたのが最初です。かなりぼんやりとした展望にしか過ぎないような状態だったんですよね。
現場体験は大学時代にインドネシアのスタディツアーに夏休み応募して行ったときです。NPOの団体が「社会問題を見に行こう」みたいな取り組みがあって、「課題を解決する人間になるんだ」みたいな強い気持ちで行ったというよりは、「ふ~ん、なんか見に行こうか。」という軽い気持ちで参加をしたんです。ところが、実際現地に行ってみると沢山のごみの中で暮らす人々の姿を目の当たりにして、とてつもなく大きな問題が目の前にあることを実感しつつも、何もできない自分の無力さを同時に思い知らされたんです。
このことがきっかけで、「自分には何ができるんだろう。」と考えた時に、問題を解決する専門家である弁護士が良いのではないか、と思ったんです。トラブルを解決するということももともと好きだったので、弁護士を志すことにしました。
千葉:
就職して社会人になる方法もあったと思いますが、就活はしていたんですか?
稲田さん:
就活は一応、するにはしました。世の中で新卒カードはすごく価値があると言われているので、それを全く使わないのは経験としてもったいない感じがして、とりあえず形だけしました。
社会人の就活は自己分析などは全然せず、サイトに登録してなんとなく気になるところを応募してみるみたいなレベルで行いました。今振り返ってみると就活と言っても良いのかというレベルの活動しかしておりませんでしたが、いくつかの会社に呼ばれて「面接」というものを体験してみました。2009年、リーマンショックの影響を受けた年です。
弁護士になるまでに体験したロースクール時代とアルバイト
弁護士を目指すときにはどういう活動をしていたのですか?例えば、ロースクールには通われたのでしょうか?
稲田さん:
はい、ロースクールに通いました。それもしっかり対策をしてすごい勉強して、という訳ではなく、ふわっとした気持ちでそのまま同じ大学のロースクールに行かせてもらったという感じでした。
稲田さん:
そうですね。勉強は苦ではなかったんですけど、当時は食欲が無かったですね。ご飯を食べるのが苦で、でも食べなきゃ栄養取れない、けど食べたくないしなぁ~、という感じでした。
千葉:
その後は司法試験を受けて弁護士になり、事務所に所属をする流れになると思いますが、その前段階でアルバイトなどはされましたか?
稲田さん:
大学生の時にサークルの先輩に誘われて日本で8番目くらいの規模、当時は6番目くらいだったんですけど、その弁護士事務所でアルバイトをしました。ちょうど僕の時って、司法制度改革、ロースクール制度みたいなのができ始めの頃で、当時は司法浪人生が司法試験を受けるためにずっと浪人してるみたいな人が卒業をどんどんしていくようなタイミングでした。そこと入れ替わりで第一陣・第二陣として大学生がアルバイトで入って、僕も事務所でアルバイトをしたんです。
千葉:
なるほど。弁護士事務所でアルバイトをしながら司法試験の勉強をしたんですね。実務経験というか、実際に弁護士事務所に入った後をイメージをしながら就労されていたのでしょうか?
稲田さん:
僕が事務員としてアルバイトをしたおかげで、弁護士から事務員へ依頼をする際のコツや方法などを学ぶことができました。弁護士は事務員と二人三脚で仕事をするんです。弁護士業は時間を売る仕事としての側面が大きいので、時間を有効に使うためにも事務員としてのアルバイト経験が役に立ちました。
千葉:
サポート側である事務員側の立場を学んだアルバイト経験だったのですね。その後、稲田さんが社会人としてスタートをしたのはいつごろでしょうか?
稲田さん:
社会人としてのスタートは司法修習が終わった後なので2015年ですね。
僕のときは司法修習はそこから1年でした。
千葉:
社会人としてスタートをして所属をした最初の事務所でのキャリアはどうでしたか?
稲田さん:
やっぱり楽しかったですね。司法試験は合格発表まで時間がかかるので、その間、弁護士資格を得る前に違う弁護士事務所にもう一度働かせてもらって、そこでは起案(文書の素案)も作らせていただきました。もちろん、全然変わったものになっちゃうんですけど。ただ、そのときの経験もあり、実際に弁護士になった後も、「思ったものと違う」というようなネガティブなギャップは感じなかったので、それまでの「勉強の熱意」をそのまま「仕事の熱意」に変えられました。
また、僕は修習のタイミングで結婚したので、弁護士業をスタートしたタイミングでは既婚者だったんです。ただ、働きすぎで、ほとんど土日のどちらかが休みの日に(妻と)会うかなくらいでした。
平日は僕、夜遅くまで仕事をしていたんです。その結果、朝遅く起きるので、朝起きた頃には奥さんがもう仕事に行ってて、ほとんど会ってないみたいな感じのすれ違い生活でした。そのような感じで、当時はいくつものライフステージの変化と重なった時期でもありました。
最初の事務所から変化を求めて移籍
千葉:
2020年というと、世の中的にはコロナとかいろいろなものが変わってきたタイミングです。そのタイミングで環境を変えようと思ったんですか?
稲田さん:
そうですね。コロナのこともあってリモートで働きたかったというのもひとつの理由ではありましたが、それ以上に同じところにずっとい続けることに違和感を感じていたのです。長く居続けるということはその分環境の変化が少ないので、自分自身のチャレンジする力が弱まっていくのを感じていたのです。このような理由がきっかけとなり、NPO関連の課外活動で知り合った先生のところに相談をして次のキャリアを決めました。
千葉:
なるほどですね。成長の速度っていうのはすごい共感しますね。結婚してプライベートではお父さんをしていると思うんですが、そのとき、お子さんはいたんですか?
稲田さん:
そうですね。だから移籍よりも前に子供ができて、そこで働き方が大きく変わったっていうのはありますね。
千葉:
やっぱりライフステージの変化に重なりますね。実際に事務所を変えるために動き出そうと。では、具体的にどういう活動になりましたか?
稲田さん:
そうですね、いきなり急に辞める(籍を移せる)わけでもなかったので、時間をかけて探していきました。
やはり、一般的な業界と比べて弁護士業界というのは閉鎖的で、しかもすごく小さい街工場の集まりみたいなところがあるんです。そういうところで常に求人が出ているところって、危ないって言ったら怒られるかもしれませんけど、リスクがあるみたいな話はあります。
僕の場合はもともと弁護士業界の中でいろんなところに伝手があったので、直接自分で探して話をしながら活動をしていきました。
稲田さん:
僕にとって、子供ができたことも大きな価値観の転機となりました。それまでの僕はビジネスというかお金を稼ぐという価値観がすごく強かったんです。それこそ当時の僕はNPO団体には正直あまり意識が向いていませんでした。
ところが子供が生まれて地域で暮らすようになって、地域で活躍するNPOのお世話になったんですよね。それをきっかけに「NPOに対する支援をしたい。」「ご一緒させてほしい。」という気持ちがどんどん大きくなっていったんです。
そこで、NPOの支援で日本国内の1・2を争う今の事務所を志望したんです。そこに縁があったので僕から声をかけ、ある種乗り込むような形で勤務させていただいているという感じです。
千葉:
子供が生まれることによって価値観が大きく変わるということは僕にも経験があり、共感します。
僕だけではなく同じようなエピソードを他で聞くこともあるので、ライフステージの変化の中でも子供の存在は大きいということですよね。その後は、退職もスムーズにされて今の事務所でのキャリアがスタートされたのでしょうか?
稲田さん:
第一希望が叶った感じですが、同時に不安もあったので10人以上の人と1on1で「辞めようと思うんだけど、これからのキャリアどうしようか?」ということを相談させていただきました。
千葉:
なんかすごいですね。いまみたいに行動している人って多いんですか?
稲田さん:
そうですね。やっぱり「弁護士業ってどうなの?」とよく聞かれますが、それと同時に「30代の自分は何者か?」ということが僕の1つのテーマだと思っています。昔の弁護士であれば、考えなくても「先生、先生」と呼ばれたかもしれないですけど、今はそうでもない実感があります。
人の時代というか、個人の時代みたいなところがあって、自分が何なのか というのはやっぱり皆さん考える人が多いと思いますね。
弁護士になって10年弱。まだまだ1人前とは言えなくても、もう若手とは言えない地点にいます。だからこそ、「あなたの強みは?」「弁護士の中ではどういうポジションなんですか?」とストレートに問われることが非常に多いんです。今はその解を自分自身で形にしていくという所に立っている感覚です。
子供や子育ての事業に関心を持った背景
千葉:
次のテーマとして、一般社団法人Papa to Children(PtoC)の話があって、PtoCの簡単な説明とそれから今は理事としてなったと思うんですけれども、改めて「理事をやろうと思った理由」を教えてくれますか?
稲田さん:
一般社団法人Papa to Children(PtoC)は、B2CとかB2Bとかっていうビジネス用語があると思うんですけど、あれを文字ったものだと聞いてます。聞いてます、というのは僕はファウンダーというか設立の時には理事ではなかったので、ちょっと伝聞的になっちゃうんです。そういう団体で「大人になることが楽しみな時代を創り続ける」ことをコンセプトに語って、パパの安心空間みたいなのを作ってる団体ですね。
ちょうどこの前はイベントを開催して、パパが休日に子供連れで来訪して気になるテーマを話し合うみたいなことをします。そうすると、ママは一人時間ができるし、子供はいつも会えないような友達みたいに会える。パパはパパ同士、気になって話ができるし、散歩よしみみたいなことをやっています。
僕はハードワーカーであまり生活に時間を使うみたいな発想でない人だったんですよね 。
それでもただ人と会うのが営業活動になるところはあって、そういう意味では人に会いに行くみたいなことはしてたんですよ。
誰かがフェイスブックでシェアしたイベントがあって、それが宮本さんという人の書籍の発表会で「それ、どんなもんかなぁ」と思って見に行ったんですよね。
それがたまたまPtoCの設立イベントだったんです。ちょうど共催していたんですよ。
だからPtoCの設立イベントに行ったわけではないんですよ。認識としては(笑)
ちょうど子供が生まれる直前で日帰り出産だったので、(子供が)いなかったのもあって、訪れやすかったんです。あとはそこが子育て環境のイベントだったんで、その頃から、ちょっとアンテナが立ち始めたんですよ。
千葉:
あらためてそこで理事やってみようと思ったのには、何かきっかけがあったんですか?
稲田さん:
お誘い頂いたというのがきっかけではありますが、僕の場合は理事になっても役割が変わらず、ずっと同じでした。PtoCは現役世代にとって価値をすごくもっているんです。
子育てって、時間が経つにつれてステージが変わっていくので、人はいつか卒業していくものだと思うんです。だからこそそれを引き継いでいかなきゃいけないところがあると思っています。
第一子が当時1歳くらいで、現役世代として入ったというのも理由のひとつですね。今も下の子は2歳ですし、僕のアクションが一つの組織内で新陳代謝が起こる最初の一歩になればいいなと思い、理事に就任しました。
千葉:
もう一つぜひ聞きたいのですが、内閣府でちょっとお仕事していた時期があったと思うんですけれども、たしか去年ですよね?それってどうでしたか?簡単に話を聞かせてください。
稲田さん:
偶然、公募の情報が回って来て「事務所のボスからも稲田くんこういうのあるよ。」みたいなこと言われて、やっぱり面白そうですよねって上司と飲みながら話をして、「じゃあ申し込んでみますか。」といった感じで絶対通るわけがないと思ってたら通って、奇跡的に選ばれて行くことになりました。
稲田さん:
任期は2年程度でしたが1年で復職しました。いやー結構やっぱり知らない世界だなーっていう感じでした。弁護士は法律を扱いますし、行政法も学ぶので、なんとなく行政って分かっているかなと思ったんですけど、僕がまだ全然何も知らないことが分かりました。
彼らは彼らなりに官僚さんも議員さんも頑張っているということも実感できました。
出向したのは、世の中を変えるみたいなところを僕は大事にしているので、どういうところに変化についての障害があるのかっていうのを見に行ったという側面もあるんです。
「なるほどそういうところに障害があるのか」みたいなところを手触り感をちょっと持てたのが出向してすごく良かったところですね。
千葉:
やはり本業の弁護士事業とは違うことをするものなのでしょうか?
稲田さん:
制度を調べて、その制度の課題というか乗り越えなきゃいけないハードルみたいなところを調べます。そこはある程度、一緒なんですけど、課題がある時に、それに対する打ち手の数はやっぱり行政の方が多いですよね。
千葉:
ありがとうございます。弁護士として2016年からスタートして4年。最初の事務所にいた後に、世の中がコロナの渦中でお子さんが生まれて、いま一般社団法人の理事をやったりとか、去年は内閣で働くなど、稲田さんは新たなチャレンジを意欲的にされていますよね。
最後に、読者の皆さんに向けたメッセージをいただければと思います。
稲田さん:
ありがとうございます。僕自身はですね、世の中でもっとチャレンジがもっと起こるといいな、という想いを持っています。チャレンジがしやすい環境やチャレンジしようとしている方などを支援したいという想いで弁護士業をしています。
それと同時に子ども関係、子育て関係の事業者をサポートしていきたいと考えています。今、そのような方たち向けの顧問契約についても商品開発中です。
そのような新たな試みに関して壁打ちになってくださる方は、是非、事業規模や事業の開始の時期とかに関わらずお声掛けいただけるとありがたいなと思います。
千葉:
ありがとうございました。大学時代から課外活動で弁護士業に興味を持った経験談と、事務所のアルバイト事務、司法修習を経て、事務所に就職したのが転機でした。その後、コロナの時期に事務所を移籍。そして、イベントで子育て中の支援活動を体験し、父親支援団体の理事として新たな風を吹き込んでいく。総じて挑戦を続ける経歴は実に素晴らしいものでした。
30代40代の生き方・働き方では、いざというときに気軽に相談できる先生がいるってすごく大事だなって思います。壁打ち希望の方は是非、彼に相談いただければなと思います。
稲田さん、この度はありがとうございました。
2020年、非営利団体への法的支援に力を入れている樽本法律事務所に移籍。2022年は1年間、内閣府に出向。こども・子育て、労働、教育についての政策に関わる。
現在は弁護士業に復帰し、特にこどもや子育てに関連したサービスを提供している事業者への支援に力を入れている。